「幽☆遊☆白書」は1990年から1994年に少年ジャンプで連載された作品である。
後にジャンプの看板作品となった「NARUTO」が72巻、「BLEACH」が74巻、「銀魂」が77巻と、どれも10年以上連載されたことと比べると、「幽☆遊☆白書」は19巻と非常に短い。
さらにスゴいのは、19巻と短いにも関わらず作風が何度も変わっていることだ。
少年ジャンプの連載マンガでは、連載途中で作風が変わることはよくある。
特に多いのが、ギャグマンガからシリアスなバトルマンガへの方向転換である。
(「キン肉マン」「DRAGON BALL」「ジャングルの王者ターちゃん」「家庭教師ヒットマンREBORN!!」など)
他にも「遊☆戯☆王」が、様々な闇のゲームで悪人と戦う内容が、カードゲーム一本に絞られるなどの方向転換はあるものの、いずれも大きな方向転換は普通は一回くらいでしかない。
ところが、「幽☆遊☆白書」は19巻なのに、方向転換の回数は多い。
以下、「幽☆遊☆白書」を読んだことない人に向けて、方向転換の歴史を紹介していく。
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●霊界死闘編(act.1「さよなら現世!!」(1巻)~act.17「黄金色のめざめ!!」(2巻))
“不良中学生・浦飯幽助は子供を助けようとして交通事故に遭い幽霊になってしまう。
霊界にとっては、不良の幽助が人助けをするのは予定外だったため、幽助は成仏できず、生き返るための試練を受けることになる“、というのがストーリー。
不良中学生の幽霊が、現世の人たちを助けたりしていく中で成長していく、というどちらかといえばコメディよりの人情ドラマといったジャンルのマンガである。
この時点ではバトル要素はない。
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●霊界探偵編(act.18「新たなる使命!!」(3巻)~act.51「強くなりたい!!」(6巻途中))
“試練を乗り越え現世によみがえった幽助は、霊界から新たな試練として、人間界で悪さをする妖怪を捕える霊界探偵として活動することを命じられる。“
探偵と銘打っているが、捜査をするというよりかは、妖怪相手に主人公・幽助が戦っていくホラー系バトルマンガといった内容になっている。
この霊界探偵編も大きくは4つに分けられる。
・「三匹の妖怪」編(3巻)
“霊界の秘宝を盗み人間界に逃れた剛鬼・蔵馬・飛影の三匹の妖怪から、秘宝を取り返すことを、霊界探偵の最初の任務として課せられる。“
剛鬼・飛影とはバトルになるも、蔵馬とは人情ドラマ的な解決を見せ、バトルマンガへの軟着陸を見せる。
主人公の幽助は、中学生にしては腕っぷしが強いものの、妖怪相手に正面から戦える強さはこの時点ではない。
指先から霊気を弾丸のように飛ばす霊丸を1日1発撃つことだけが、妖怪に対抗する手段となる。
・「乱童」編(3巻~4巻)
“霊光波動拳の使い手・幻海が後継者を決めるための門下生大選考会が開かれる。
門下生になるべく霊能力を持った人間が集まるが、その中には妖怪・乱童が素性を隠して参加していた。
幽助は乱童に霊光波動拳の奥義が伝えられることを阻止すべく、参加者の一人として潜入捜査を行う。“
どの参加者が妖怪・乱童かを推理するミステリー要素のあるシリーズ。
幽助以外にも霊能力者が大勢いることが示され、このシリーズから幽助のケンカ仲間であった桑原が霊能力の高さから仲間として加わることになる。
大選考会には、ゲームセンターのゲームのような機械で霊能力の高さを測るといった奇妙な試練があり、この要素は後の「HUNTER×HUNTER」のハンター試験にも引き継がれている。
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・「四聖獣」編(4巻~5巻)
“人の心に寄生する魔回虫を蟲笛で操る四聖獣を倒すべく、魔界にやってきた幽助と桑原。
助っ人に飛影と蔵馬を加え、四人は四聖獣のいる城を攻略する。“
このシリーズで、幽助・桑原・飛影・蔵馬のメインキャラ四人が初めてそろう。
幽助は幻海師範から霊光波動拳の修行を受けているので、このシリーズから妖怪と互角以上に戦える戦闘力を持つ設定になって、霊丸も複数発撃てるようになっている。
(なぜか桑原も妖怪と普通に戦えるようになっている)
四人が魔界で四聖獣と戦っている一方、人間界では幽助の幼なじみの螢子が魔回虫に寄生された人間に襲われており、ホラー色が強いシリーズ。
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・「B・B・C」編(6巻)
“宝石になる涙を流せる妖怪の少女・雪菜が、大金持ちの人間・垂金権造に監禁されたことをつかんだ霊界は、幽助に救出の任務を与える。
幽助と、雪菜に一目ぼれした桑原は、垂金邸に乗り込むが、そこには闇ブローカー・戸愚呂兄弟とその部下の妖怪たちが立ちはだかる。
B・B・C(ブラック・ブック・クラブ)のメンバーである垂金は、クラブのメンバーに、侵入者(幽助・桑原)と妖怪たちのどちらが勝つかの賭博を持ち掛けるのだった。“
単純に人間を善、妖怪を悪と描くのではなく、吐き気を催すような悪党が人間の側にいるというテーマは後の「仙水編」にもつながっている。
B・B・Cのメンバーの一人、左京が侵入者の勝利に当時の日本の国家予算(66兆2000億)と同額を賭けるのが名シーンとして挙げられる。
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●暗黒武術会編(戸愚呂兄弟編)(act.52「暗黒武術会開幕」(6巻途中)~act.112「戸愚呂の償い!!」(13巻途中)
“人間界の闇社会で開かれる暗黒武術会に、幽助・桑原・飛影・蔵馬の四人はゲストとして招待される。
拒否権のない招待に四人は、謎の覆面戦士を加え浦飯チームとして参加し、他の妖怪チームと死闘を繰り広げる。“
作中最長のシリーズであり、暗黒武術会を基にしたゲームもあるため、「幽☆遊☆白書」のイメージとしてこの「暗黒武術会編」を思い起こす人も多いと思う。
トーナメント戦で、次々に現れる強敵チームを撃破していく格闘バトルマンガ路線。
大会の間中でも、主人公たちのパワーアップイベントがあり、強さがインフレしていく。
そして、その強さの究極の存在である戸愚呂(弟)が最終決戦の相手となる。
この「暗黒武術会編」は、個人的にむちゃくちゃ面白いのだけど、複雑なドラマ・設定を生みだせる冨樫先生の創作力を考えると、トーナメントの格闘戦はちょっとシンプル過ぎる気がする。
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●魔界の扉編(仙水編)(act.113「“領域”にようこそ!!」(13巻途中)~act.153「それぞれの明日!!」(17巻途中))
“戸愚呂チームを破り、暗黒武術会に優勝した幽助たちに、新たな危機が訪れる。
それは魔界と人間界をつなぐ界境トンネルを開こうとしている者たちの存在だった。
計画の首謀者は、幽助の先代の霊界探偵・仙水忍。
魔界の影響で“領域”の能力に目覚めた人間たちと計画を進める仙水を止めるべく、幽助たちは戦いを始めるのだった。“
「暗黒武術会編」で強さのインフレが起こったものの、そのラスボス・戸愚呂(弟)ですら、魔界ではB級であることが明かされ、魔界にはその上をいくA級・S級の妖怪が大勢いることが言及される。
これが「DRAGON BALL」や「BLEACH」なら、A級下位の妖怪が現れ、力の差を見せつけるという展開を見せ、さらなる強さのインフレを予感させるのだが、冨樫先生はそんな方向には進まない。
能力者の展開する“領域”(テリトリー)内では、定められたルールに従って戦わなければならないという能力バトルマンガになるのだ。
この「仙水編」には名シーンも多く、個人的にはこのシリーズが「幽☆遊☆白書」の最高傑作シリーズだと思う。
しかし、複雑なルールでの頭脳戦となる能力バトルマンガで、充分に対応可能なのがメインキャラ四人のうち蔵馬しかいないのがネックとなる。
この能力バトルマンガに対応可能なメインキャラで仕切りなおしたのが「HUNTER×HUNTER」なのだと思う。
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●魔界統一トーナメント編(魔界編)(act.154「初代霊界探偵・真田黒呼!!」(17巻途中)~act.170「宴のあと」(19巻途中))
“仙水の計画を阻止することに成功した幽助だったが、自身が魔族の血をひく存在だったことを知り、魔族の力に目覚めてしまう。
魔界は、雷禅・躯・黄泉の三大妖怪が覇権を争っていた。
雷禅は自分の血をひく幽助を、躯はスカウトで飛影を、黄泉は昔の因縁から蔵馬を、それぞれ味方に引き入れる。
雷禅が死去したことにより、三大勢力の均衡が崩れるが、雷禅の後継者・幽助は魔界統一トーナメントによって魔界の統治者を決めることを提案する。”
桑原を除いた幽助・飛影・蔵馬のメインキャラ三人が、それぞれ敵対する勢力に分かれ、戦略バトルマンガの様相を呈するのだが、すぐにトーナメントが開催され、結局格闘バトルマンガに戻ってしまう。
そして、そのトーナメントもほとんどの試合が描かれず、結果だけが示されて終わる。
一応、魔界の次の統治者が決まったので、ストーリーとしては収束はしている。
とはいえ、不完全燃焼感は否めない。
もっともトーナメントを完全に描いたとしても、前の「暗黒武術会編」や「仙水編」を超えるシリーズになっていたかは疑問である。
冨樫先生の身体的な理由やマンガに対する考え方もあって唐突な絞め方になっているのだが、だらだらと続くよりスパっと終わらせたことは結果的に英断だったのかもしれない。
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●それぞれの未来(act.171「探偵業復活」(19巻途中)~act.175「それから…」(19巻))
“トーナメントが終わり人間界に戻ってきた幽助は探偵業を復活。
妖怪が絡んだトラブルを解決していく。
そんな中、霊界で宗教テロリスト・正聖神党が過激な行動に出たため、幽助・桑原・飛影・蔵馬は霊界に向かう。”
「魔界編」が終わった後のエピローグ的な位置づけ。
霊界探偵を復活させた幽助だったが、鋭い推理力はないため、実質の探偵役は蔵馬が担っていたりする。
この復活した霊界探偵のエピソードでは、“一般の人間の生活に潜んでいる怪異”が描かれる。
この“怪異”の部分を“異星から来たエイリアン”に変えたのが、「幽☆遊☆白書」の次の連載作品「レベルE」なのだと思う。
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さて、ここまで「幽☆遊☆白書」のあらすじと作風の変遷を紹介してきた。
人情ドラマ的なストーリーから、様々なパターンのバトルマンガまで、何種類ものマンガが詰め込まれているものの、そのどれもが面白いのは驚異的なことだと思う。
終盤こそ尻すぼみだったが、「幽☆遊☆白書」は天才マンガ家・冨樫義博の傑作と言って間違いないと考える。