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【SLAM DUNK】なぜ最後のシュートはダンクではなかったのか? 「左手はそえるだけ…」の意味を考察

 

SLAM DUNK」読者の中でしばしば言われるのが、漫画のタイトルが「SLAM DUNK」なのに、どうして最後のシュートをスラムダンクで終えなかったのか? という疑問である。

 

本記事では、この疑問も含めて、「SLAM DUNK」の最後のシュートについて考察していく。

 

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スラムダンクは神奈川県予選で役目を終えたシュート

まず、「SLAM DUNK」作中でのスラムダンクというシュートの位置づけについて考えていこう。

 

スラムダンクは、第一話で主人公・桜木花道が、一目ぼれしバスケ部入りを決意させた赤木晴子から最初に教わったシュートである。

 

第一話ではダンクは成功せず、その後、晴子の兄でキャプテンの赤木との非公式の勝負にて、ようやく決めることになる。

しかし、この時のダンクは厳密にはファウルとなるプレイであった。

 

桜木が公式戦でダンクを決めるのは、試合に出るようになってからだいぶ後となる。

 

公式戦一戦目の三浦台高校戦では、ダンクは不発、

翔陽高校戦では、ダンクを決めるもファウルを取られノーカウント、

海南大附属高校戦に至って、ようやく公式戦でダンクを決めるのだ。(15巻)

 

不発

 ↓

決めるがノーカウント

 ↓

成功

 

と、主人公・桜木の成長の度合いが、ダンクによって見て取れるようになっている。

 

この公式戦初ダンクは、神奈川県予選決勝リーグの一戦、試合終盤に決めた値千金の価値があるシュートである。

しかも、神奈川No.1プレイヤー牧紳一からファウルを貰いながら決めるという難易度の高いプレイで、残り時間わずかに逆転のチャンスを首の皮一枚残す結果となった最高の場面でのダンクだった。

 

次の陵南高校戦でも、大事な終盤の場面で桜木はダンクを決めるが、上記の初ダンクのインパクトには敵わないと個人的には考える。

海南戦で、未完成だったスラムダンクというシュートはある意味完成してしまったからだ。

 

神奈川県予選の中で、スラムダンクは最高の場面で完成してしまった、というのが、作中最後のシュートがスラムダンクでなかった理由の一つだと考える。

 

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「左手はそえるだけ」は、熱血主人公とは真逆の冷静なプレイ

それでは、作中最後のシュートのシーンを振り返ってみよう。

 

インターハイ二回戦、高校バスケ界の絶対王者・山王工業高校との試合の残り時間はあとわずかで1点差のビハインド。

逆転を目指し、敵陣に切り込む湘北のエース・流川だったが、ゴール付近で執拗なマークに遭ってしまう。

強引にシュートに行こうとする流川の視界に、「左手はそえるだけ…」とつぶやいているフリーの桜木の姿が映る。

流川はシュートから桜木へのパスにとっさに切り替え、見事に通ったパスから合宿で培ったジャンプシュートを桜木が放ち、ブザービーターで逆転のゴールが決まる、というシーンだ。

 

少年マンガでは、最後に主人公が自身とチームメイトの思いを乗せた熱血プレイで奇跡を起こし、練習でもこれまでの試合中でも成しえなかったプレイを成功させる、というシーンが良くある。

 

そういう少年マンガらしい精神論ごり押しの奇跡の熱血プレイは、個人的に嫌いではないし、否定するものではない。

 

しかし、「SLAM DUNK」での最後のシュートは、そういった少年マンガっぽい熱血プレイとは真逆のものだ。

 

エース流川にマークが集中した隙に桜木がシュートを決めるというのは、シュート合宿の際に安西先生が桜木に説明した作戦だ。

 

最後のシュートのときに桜木のいた位置は、シュート合宿中に最も成功率の高かった位置。

 

「左手はそえるだけ」は、キャプテンの赤木からシュートの基本を教わった際に言われた、ボールを持つコツのようなものである。

 

つまり、最後のシュートのシーンは、

安西先生の作戦における自分の役割を理解した上で状況判断し、

最もシュート成功率の高い位置でパスを受け、

基本を意識した丁寧なフォームで決めたシュートということになる。

 

奇跡の熱血プレイとは対極の冷静でクレバーなプレイなのだ。

シュートが決まったという結果も、奇跡でも何でもなく成功率の高い“なるべくしてなった”結果と言える。

 

「うおおぉぉっ!

 みんなの思いを乗せてくらえっ!!

 スラムダーンク!!!」

などと、叫びながら奇跡の熱血プレイをするラストシーンのマンガとはまったく違うのだ。

 

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唯一、しゃべっているコマが静寂を感じさせるという矛盾

上記の最後のシュートシーン、多くの読者が緊迫感のある試合終盤の中にあって、桜木の「左手はそえるだけ…」のコマで“静けさ”を感じたことと思う。

 

緊迫感に満ちたシーンの連続から“静けさ”を感じさせ、緩急をつけることで、最後のシュートへの移行を盛り上げる効果をあげている。

 

しかし、これは冷静に考えると不思議な気がする。

 

マンガは音の出ない表現媒体だ。

そのため、音や声は文字で現わされる。

 

ところが、「SLAM DUNK」の最後のシーンでは、試合終盤で盛り上がっているであろう観客席からの大歓声、ベンチの仲間、コート内の選手たちの声、バッシュが床を鳴らす音、ドリブルしたときのボールの音、それらの表現にまったく文字を使っていない。

 

反対に「左手はそえるだけ…」は、明確に桜木がつぶやいている声を表現している。

 

要するに、

音を表す文字が書かれていないシーンで我々は喧騒を感じ、

明確な発声を描いた文字のあるシーンで静けさを感じているのだ。

 

この文字を書かずに音を表現し、文字を書いて静けさを表現するという矛盾したマンガ技法は、誰でもできることではないだろうと思う。

 

 

また、最後の流川と桜木のシーンで、「よこせ ルカワ!」「外すなよ どあほう!」のような少年マンガっぽいセリフの応酬もなく、二人はアイコンタクトのみでプレイを成立させていることにも注目したい。

連載初期~中期くらいの「SLAM DUNK」の描き方なら、そのようなやり取りをしていた可能性があるが、この最後のシーンではそのようなセリフは排除している。

 

現実のバスケでも、フリーの選手が声をあげてアピールするのは通常のことだ。

そのため、流川はともかく、桜木の方にフリーを呼び掛けるセリフがあっても良さそうなものなのだが、「左手はそえるだけ…」と自身につぶやくだけにしている。

 

このシーンで呼びかけるセリフを使わなかったのは、

呼びかけなくても、桜木には流川がパスを出すという絶対的な信頼感があり、

流川にも桜木がシュートを決めるという信頼感があった、という表現だったのではないかと推測する。

 

そういった表現が、この最後のシュートシーンを、少年マンガ史上に残る屈指の名シーンにしているのだと思う。

 

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才能ある素人主人公の存在は努力の否定になりかねない

スポーツものの少年マンガでは、A級の才能を持ち長年努力をしてきた秀才・ライバルキャラを、粗削りながら部分的にS級の才能を持つ競技経験の浅い主人公が勝利する、という展開が見られる。

 

SLAM DUNK」でいえば、登場するライバルキャラのほとんどは、一年生の主人公・桜木よりも年上であり、バスケ歴もはるかに長い。

 

そんなバスケ歴の浅い素人主人公が、最初から練習もなくできていた(赤木との勝負時)ダンクシュートで勝利してしまえば、努力の過程の意味がなくなってしまう。

 

ケタ外れの才能の持ち主が、気合を入れれば勝利できることになってしまうからだ。

 

桜木のバスケ歴は、3~4か月ほどと短いのは確かだ。

だが、試合を決めた最後のシュートは、2万本の努力の末に手に入れた合宿シュートだった。

 

最後のシュートが、ダンクではなくジャンプシュートだったのは、努力の否定にもなりかねない少年マンガ的展開を避けたのではないかと思うのだ。

 

SLAM DUNK」が名作少年マンガとして語られるのは、従来の王道少年マンガ的な展開を取らなかったからこそなのだと思う。

 

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