カワズまんが研究所

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「ハイキュー‼」のラストは「SLAM DUNK」のラストへのアンチテーゼである

 

「ハイキュー‼」は全体的に「SLAM DUNK」に似ているが、ラストが大きく異なる

 

「ハイキュー‼」は「SLAMDUNK」に構造的に似ている点が多い。

以下に似ている点を列挙する。

 

・優れたバネを持つが、競技経験が浅く技術はつたない。同学年の天才に強いライバル心を抱く明るい髪色の主人公。(桜木花道、日向翔陽)

 

・天才的な実力を中学時代から認められているも、協調性に欠ける黒髪のライバルキャラ。(流川楓、影山飛雄)

 

・小柄だがセンスにあふれている。トラブルのため参加が遅れ、作中では途中から登場する二年生。(宮城リョータ、西谷夕)

 

・能力が高いにもかかわらず、挫折により部活を離れるも、後に復帰する三年生。(三井寿東峰旭)

 

・チームの精神的・実力的な土台の存在だが、試合中の負傷により一時戦線を離脱することのあるキャプテン。(赤木剛憲、澤村大地)

 

・主人公たち一年生の加入でスタメンの座を追われるも、要所で活躍する副キャプテン。(小暮公延、菅原孝支)

 

と、以上のように似ている点は多い。

加えて、全国大会での強豪との試合では、発展途上の主人公が急成長を見せながらも、体調不良(桜木:背中の負傷、日向:発熱)でベンチに下がってしまうところも同じだ。

 

しかし、「SLAM DUNK」の桜木は“ダンコたる決意”でコートに戻り、王者・山王工業に歴史的勝利をあげたのに対し、「ハイキュー‼」の日向はコートに戻ることなく、烏野高校は鴎台高校に準々決勝で敗れることになる。

 

このラストの違いの意味を考えていこうと思う。

 

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負傷しながらも強敵に最後まで立ち向かった桜木と、体調不良に終わった日向

 

SLAM DUNK」の桜木は、背中を強打により負傷し、一度は意識を失うが、意識を取り戻し、再びコートに復帰しようとする。

監督の安西は止めようとするが、

「オヤジの栄光時代はいつだよ… 全日本のときか?

 オレは…… オレは今なんだよ‼」

と強硬に出場する。

 

結果、絶対的な王者である山王工業に勝利を収める。

しかし、その試合での無理がたたって、桜木はリハビリを余儀なくされる。

 

一方、「ハイキュー‼」の日向は、春の高校バレーの鴎台高校戦で、かつてないほど好調、ファインプレーを連発するが、突如、電池が切れたように倒れこんでしまう。

39度の発熱が発覚、本人は試合に出続けることを懇願するが、顧問の武田に

「今 これ以上 君を試合に出すことはできません」と宣告される。

 

さらに武田から、

「(略)そして君は今 “がむしゃら”だけでは越えられない壁があると知っている

  (略)勝つことを考えて下さい

 (略)きっと君は これからもずっと「小さい」

 他人よりチャンスが少ないと真に心得なさい

 そして その少ないチャンス ひとつも取り零すことのないよう掴むんです

 …君は

 君こそは いつも万全で チャンスの最前列に居なさい」

と諭され、日向の春高バレーは終わりを告げる。

 

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勝利と引き換えにチャンスの最前列に居られなかった桜木と、チャンスに備えた日向

 

日向は結局、高校の三年間で全国優勝を成し遂げることはなかった。

だが、高校卒業後ブラジルにビーチバレー修行に向かい、帰国後はVリーグに所属、最終的にはオリンピック代表の座をつかむことに成功し、物語は終わる。

 

SLAM DUNK」の桜木については、その後が多く描かれていないので、リハビリを通して高校バスケ界に復帰できたのか不明である。

バスケで大学進学したかもしれない、社会人リーグに進んだかもしれないし、アメリカに渡ったのかもしれない。

その辺りは描かれていないため分からない。

 

ただ確実に分かっていることは、最終回でライバルの流川が全日本高校選抜に選ばれた際に、桜木はリハビリ中で選ばれることはなかったということだ。

 

つまり、桜木は価値の高い一勝を手にできたが、その代わり、リハビリが必要になり、競技から離れることになる。

流川がチャンスを掴んだときに、桜木はそのチャンスの最前列に並ぶどころか、負傷の影響でチャンスの列に並ぶことすらできなかった。

 

対して、「ハイキュー‼」の日向は、鴎台高校戦で勝利を得ることができなかったものの、来るべきチャンスに臨む準備をすることができ、少ないチャンスを掴むことができた。

 

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あしたのジョー」の“真っ白な灰”の呪縛

 

長らく日本の社会では、「あしたのジョー」のラストで描かれた“ほんの一瞬にせよ まぶしいほど燃え上がり あとには真っ白な灰だけが残る”という生き方を美徳とする風潮があったように思う。

 

自分のすべてを犠牲に、ひとつのことを成し遂げようとする姿を、美しいと考える人たちが少なくなかったのだ。

 

この風潮は、スポ根マンガにおいて「オレの肩がぶっ壊れても良いから」「たとえ、この脚が砕けても」という文脈で頻繁に登場する。

 

また、バトルマンガにおいても、仲間のために生命を賭け、自分を犠牲に戦うシーンはとてもベタだ。

 

マンガの中で、自分を犠牲にする行為は尊い、という思想は、メジャーだったのだと思う。

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現実世界でも、21世紀になって“真っ白な灰”の呪縛は過去のものに

 

さて、この自己犠牲を是とする“真っ白な灰”の呪縛だったが、21世紀になって、流れが変わってきたように思う。

 

1998年の甲子園で、横浜高校松坂大輔投手は、上重聡投手のPL学園と延長17回を投げぬいた翌日もリリーフ登板を果たした。

PL学園対横浜延長17回 - Wikipedia

 

その後、2006年の甲子園では、斎藤佑樹投手を擁する早稲田実業田中将大投手を擁する駒大苫小牧の決勝戦が、延長15回で決着つかずに再試合となることがあった。

第88回全国高等学校野球選手権大会決勝 - Wikipedia

 

この2006年くらいから、一人の投手の肩や肘が犠牲になるほどに酷使することを絶賛するのではなく、忌避する風潮が強くなっていったと記憶している。

 

また、21世紀に入ると、スポーツの世界だけでなく、一般社会においても過労死が問題視されるようになり、2010年代には働き方改革が叫ばれるようになった。

これにより「モーレツ社員」「24時間戦えますか?」という自分を犠牲にした働き方は過去のものになっていった。

 

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「ハイキュー‼」の高校編後は蛇足ではなく必要だった

 

作者が「ハイキュー‼」の日向について、自分を犠牲にした強豪校への挑戦をさせなかったのは、“真っ白な灰”になるまで燃え尽きることを必ずしも美徳としなくなった時代の流れを感じさせるものだった。

 

「ハイキュー‼」の高校編より後のエピソードは、エピローグとしては長いため、蛇足だと感じる人もいると思う。

 

しかし、春高バレーの後の主人公の軌跡を描くには、必要なことだったのだ。

身長が低く、競技歴も浅い日向がオリンピックの舞台に上がるためには、入念な準備が背景としてなければ、説得力に欠ける。

 

だからこそ、ブラジルでのビーチバレー修行、Vリーグでの試合が必要だったのだ。

Vリーグの試合は、これまでのキャラを登場させるオールスターゲーム的な意味合いも兼ねていたのかもしれないが)

 

価値観は人それぞれなので、自分を犠牲にすることを美しいと感じても良いと思うし、自分を大切にした上で、目標に向かっていくことを美徳と考えても良いと思う。

 

SLAM DUNK」には「SLAM DUNK」の感動があり、「ハイキュー‼」には「ハイキュー‼」の感動がある。

 

その感動には、社会的な背景の変化があったのだと思う。