映画「THE FIRST SLAM DUNK」の感想などを記していく。
基本、原作既読の前提で書いていくので、原作のラストの内容も触れていく。
観に行くと、THANKS ARというビジュアルカードを渡された。
こちらの面のQRコードを読み込んでアプリを起動。
そうすると、反対面の湘北メンバーが動く仕掛けになっていた。
対戦相手はやっぱり山王工業
公開前にストーリーは明かされていなかったが、大方の予想通り、原作の最終戦となったインターハイ二回戦の山王工業戦が描かれていた。
全体の構成としては、山王戦を丸々一試合をする合間合間に回想のような形で、キャラの掘り下げをするオリジナルストーリーが追加されていた。
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主役は宮城リョータ
原作では主人公が桜木花道だが、今回の映画の主役は宮城になっている。
試合外のオリジナルストーリーは宮城中心になっているし、試合でも宮城の活躍シーンが原作より際立っている。
宮城のストーリーのあらすじは以下の通り。
沖縄に住んでいたころ、バスケを教えてくれた三歳上の兄が急死。
その後も宮城はバスケを続け、神奈川に転居。
中学ではバスケ仲間がおらず、高校では三井との衝突があり、バスケから離れかけるが、故郷の沖縄で兄との秘密基地から再びバスケに戻っていく。
死んだ長男を想起させるバスケを続けていることで、シングルマザーの母と衝突することがあり、そのわだかまりを解消していく様が描かれている。
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原作には描かれなかった“家族”
そもそも原作の「SLAM DUNK」では、“家族”というものがほとんど描かれていない。
主要キャラでさえ、親兄弟が実在するのか不明である。
(高校生なので、保護者はいるはずだけど)
描かれた家族のシーンといえば、赤木兄妹、赤点回避のための赤木家での勉強会時の三井の親への電話、中学時代の桜木の父が倒れたシーン、沢北の父、くらいである。
そんな「SLAM DUNK」で、今回は宮城の家族が描かれている。
宮城が選ばれたのにいくつか理由はあるだろうが、湘北の5人の中で、一番原作での掘り下げが少なかったからではないだろうか。
赤木、木暮、三井のような過去の掘り下げはなく、赤木の「全国制覇」、流川の「日本一の高校生」のような明確な目標はない。
試合でも、赤木、三井、流川ほど、相手チームからチェックされることもない。
対戦相手のPGが、牧、藤真のような強敵のときにも、チーム全体での対策として描かれ、宮城一人のマッチアップで名勝負が繰り広げられるということはなかった。
そんな原作で掘り下げられなかった宮城リョータと“家族”を描くのが、本作の目的のひとつだったのではと思った。
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派手さはないが、よく動くアニメーション
アニメーションについては、素人目には、滑らかによく動くアニメーションだという印象だ。
リアリティ重視で、テレビアニメ版のように、地平線の向こうまでドリブルしてたり、一回のジャンプの合間に長尺の解説ゼリフを言っていたりというシーンはなかった。
ただ、リアリティ重視のため、ケレン味のある派手さはない。
そのため少しおとなしめな印象でもある。
この辺は、好みの問題かと思う。
BGMについても要所で使う形で、音楽を使っていないシーンが多い。
宮城の家族のシーンでも、「はい、ここが泣くところですよ」と分かりやすく音楽で盛り上げたりはしない。
静かなシーンばかりで描かれている。
そういう分かりやすく派手な演出ではないため、アニメ作品とはいえ、小さい子供には難しくて向かないように思う。
実際、自分の観た回で小さい子供を連れた家族が来ていたが、途中何度か話し声がしていた。
きっと、小さい子は飽きていたんだと思う。
原作にほぼ準拠だが、カットシーンも多し
原作との相違点について、山王戦の試合内容はほぼ原作準拠であったと思う。
とはいえ、山王戦+オリジナルストーリーの構成のため、2時間に収めるのにカットされたシーンも少なくない。
例えば、試合開始直後、桜木と宮城のアリウープ奇襲、すぐに「同じ2点だピョン」と深津が返すなどのシーンがあり、桜木の顔面シュート、三井の好調宣言など、原作のシーンが次々出てくるも、河田弟との局地戦はばっさりカットされ、前半はすぐに終わる。
他にもカットされたシーンはいくつかあった。
桜木の「大好きです 今度は嘘じゃないっす」は個人的にすごく好きなシーンだったので、入れてほしかったが残念ながらカットだった。
だいたい原作準拠だが、原作との大きな変更点で気付いたのは以下の通り。
・三井と宮城が中学時代に接点がある。
・宮城は三井とのケンカで入院ではなく、ケンカ後にバイク事故で入院。
・三井は宮城とのケンカ後、安西先生の姿を見て自発的にバスケ部に頭を下げて戻る。
(バスケ部襲撃はなし)
・赤木が、河田への対抗心を捨てて、自分の役割を自覚するのは自力。
(包丁を持った身長2メートルの大男の乱入はなし)
宮城と三井のくだりでいくつか変更があった印象だ。
予告編での「負けたら坊主な」の宮城のセリフは、中学時代に接点があり、三井をバスケ経験者と知っている宮城が、三井と高校で会った際にバスケの勝負を持ち掛け煽るシーンである。
(バスケでの対決はなく、原作通りに堀田たちも含めた宮城へのリンチになる)
他には、「バスケットは好きですか?」と訊ねるときの晴子の髪が、その時点で短いなど細かいところもあるが、大筋に影響はないところ。
試合後のラストシーンは、原作とはまったく違うシーンが追加されている。
個人的には、このラストシーンは良かったと思う。
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ラスト30秒はやはり無言
試合が残り時間30秒を切ったところで、原作はほぼキャラのセリフがなく、無言の絵だけで緊迫した空気を演出している。
それでも、原作では山王の堂本監督が、タイムアウトをとりかけるが、結局とらずに深津のゲームメイクに託すシーンに、ナレーションの解説が入っていた。
しかし、今回の映画では、そのナレーションすら無し。
映像だけで、タイムアウトをとりかけて止めるシーンを表現している。
さらに原作では、ずっと無言が続いた最後に、桜木の「左手は添えるだけ」のセリフとともにブザービーターのシュートが放たれるが、映画では「左手は添えるだけ」のセリフすら無言だった。
だが、桜木の唇は動いているので、原作ファンは心の中で「左手は添えるだけ」をつぶやいていたことだと思う。
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原作ファンは満足だが、新規の初心者には難しいか
さて、原作ファンのブログ管理人は、全体としてすごく満足な出来だった。
しかし、「FIRST」の名を冠しているものの、原作未読の新規の人には、少し難しいのではないかと思った。
理由としては二つ。
一つは、原作のような積み重ねがないこと。
桜木と流川の最後のワンプレーからのハイタッチは、これまでずっと仲が悪かった二人の積み重ねがあったからこそ感動するのである。
さらに、チームメイトに恵まれなかった赤木の不運、三井のバスケを捨てていたことへの後悔などのシーンも今まで長く描かれていた上で、最後の山王戦がより感動的になる。
さすがに二時間の映画では、原作ほどの積み重ねを描くことはできていないと思う。
もう一つの理由は、宮城リョータが主人公の映画としては、試合終盤に宮城の活躍が少ないこと。
原作準拠を優先させると仕方のないことながら、主人公の宮城以外のキャラの活躍が多くて、二時間の映画単体として観ると、軸が定まっていないように観えるのではないかと思う。
そのため、未読者はできれば原作を読んだ上で観るのがオススメ。