「CYBERブルー」は、原哲夫先生が「北斗の拳」と「花の慶次 -雲のかなたに-」の間に連載した作品である。
しかし、「北斗の拳」(1983~1988年)は27巻、「花の慶次 -雲のかなたに-」(1990~1993年)は18巻とヒットしたにもかかわらず、「CYBERブルー」(1988~1989年)は4巻(出版社を変えた再販版は3巻)と短命に終わった打ち切り作品だ。
本記事では、「CYBERブルー」が打ち切りに終わった理由について、前作「北斗の拳」との比較を交えて考察していく。
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本当に打ち切りだったのか?
上記の通り、短命に終わった作品ではあるが、その情報だけだと
「始めから短期の予定の連載だったのではないか?」と思う人もいるかもしれない。
だが、本作はまぎれもなく打ち切り作品である。
“時は2305年、地球から遠く離れた殖民惑星ティノスは過酷な環境のため、生命維持装置が人類にとって必須だった。
ティノスに最初の開拓者が降り立ってから300有余年、開拓者にとって棄てられた惑星となったティノスの都市は荒廃していた。
ジャンクシティの17歳の少年ブルーは、悪徳保安官に騙され生命を落とすが、300年を越える作業用ロボット・通称ファッツと融合し、新人類サイバービーイングとしてよみがえる――”
というのが、本作の出だしのストーリーである。
途中からは、4人の元老と呼ばれる者を倒し、それぞれが持つ「フェイル・セイフ・カフ」というアイテムを4つ手に入れることがブルーと仲間たちの目的となる。
1人目の元老を倒し、1つ目の「フェイル・セイフ・カフ」を入手するのだが、2人目の元老が登場すると
「残りの3つはおれが持っている」と雑な急展開を見せる。
この急展開こそが、計算された短期連載ではなく、打ち切りであったことの証拠だと思う。
他には、序盤こそは銃火器を用いたハデな銃撃戦が中心だったのに、中盤からは結局前作「北斗の拳」のような肉弾格闘戦中心に移行していったのも、計算ずくの作品ではなかった証しと思われる。
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さて、「CYBERブルー」が「北斗の拳」と違って打ち切りになった理由について考えてみる。
一つには、「北斗の拳」におけるシン、ジャギ、サウザー、ラオウなどといった魅力的な敵キャラクターが、「CYBERブルー」では不足していたことが挙げられる。
そして、もう一つは主人公ブルーには、「北斗の拳」のケンシロウほどの魅力がなかったことが原因だと考える。
ケンシロウは感情の起伏が乏しく、人間的な魅力こそはイマイチなのだが、北斗神拳のインパクトはとても強い。
なにせ屈強なモヒカン男を指で一突きするだけで、内側から破裂するのだ。
その後のマンガ作品を見渡しても、これほどインパクトのある攻撃をするキャラはそうはいない。
さらに北斗神拳の設定が秀逸なのは、相手の身体に異変を起こさせるトリガーを経絡秘孔を突くことと明示していることだ。
経絡秘孔を突くことで北斗神拳は機能するので、達人クラスの強敵はやすやすと経絡秘孔を突かせてはくれないし、分厚い脂肪の肉壁で経絡秘孔に届かない敵や内臓の位置が常人と異なる敵には手こずることになる。
ザコ相手には一撃必殺ながら、強敵にはなかなか通用しない、という設定にできるのだ。
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「CYBERブルー」の主人公ブルーの魅力は?
それでは次に「CYBERブルー」の主人公ブルーの魅力について見ていく。
作業用ロボットのファッツと融合することで、サイバービーイングとなった主人公ブルー。
融合する前は17歳の年相応の少年だったが、300歳のファッツと融合してからはケンシロウと同じように感情の起伏が乏しく無表情なキャラとなっている。
(ケンシロウよりは、ちょっとだけだが感情的。とはいえ無表情がデフォルト)
あとは英語のいわゆる“Fワード”をやたらと連呼するくらいで、ブルーのキャラクターとしての魅力は低い。
そして、ブルーの能力的な魅力についてなのだが、これもよく分からない。
ロボットとの融合でサイバービーイングとなったブルーの能力は、ロボコップのような強靭な鋼鉄の肉体、敵の弾道を予測し迎撃できる演算能力と射撃性能、相手の脳をスキャンし考えを読むリーディング能力、ジャンク品から武器を生みだす製造能力などなど、いくつもある。
しかし、いくつもあるがゆえに、「これぞCYBERブルー」という決め手となる能力はどれだか良く分からないのだ。
ケンシロウの北斗神拳に匹敵するインパクトのある能力に欠けていたのが、ブルーがキャラクターとして弱いところだと考える。
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主人公には弱点もあった方が良い?
主人公ブルーに特徴的な目立った能力がないことは上記で述べたが、ブルーにはこれといった弱点も設定されていない。
ロボットと融合しているので、磁力に弱いとか、エネルギー切れを起こすと極端にパワーダウンするとか、あっても良さそうなのだが、特に明示されていない。
「DRAGON BALL」の孫悟空ならシッポを握られると力が抜ける(初期)、「ONE PIECE」のルフィなら海賊なのに泳げない・海桜石で能力を封じられる、「寄生獣」の主人公・泉新一に寄生するミギーなら四時間ほど強制的な睡眠に襲われるなど、致命的な弱点を主人公に設定されることは少なくない。
弱点を主人公に設定することで、主人公のピンチの場面を作ることができるのが、弱点を作る理由だ。
しかし、ブルーにはこれといった弱点がない。
色々な能力があって何でもできる上に、これといった弱点もない。
だから、ブルーにあまり魅力を感じないのだと思う。
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主人公のスペックを決めると自由度は下がってしまう?
さて、ここまで「CYBERブルー」の主人公ブルーには、能力的な長所・短所がはっきりしないことが魅力的でない理由と述べてきた。
だが、主人公のスペックをあまりガチガチに決めてしまうと、キャラの自由度が失われてしまうのではと懸念する意見もあると思う。
もちろん、あまりに厳密に決めすぎると、後々キャラを動かしづらくはなると思うが、個人的にはある程度主人公の能力を決めておいた方が良いと考える。
主人公の長所・短所を設定し、うまくいっている例として、ボクシングマンガの「はじめの一歩」を挙げておく。
「はじめの一歩」の主人公・幕之内一歩のボクサーとしての特徴を以下に記す。
・同階級内においても小柄でリーチが短いが、その分、接近戦に強いインファイター。
・相手との距離を詰める突進力に優れるが、フットワークを使うアウトボクサーは苦手。
・必殺技のデンプシー・ロールは強力無比な連打だが、動きの単調さからカウンターに弱い。
と、上記の特徴を持っているのだが、その特徴に合わせるような対戦相手が何人も設定されている。
・主人公と反対のアウトボクサータイプのライバル(宮田一郎)
・主人公と同じインファイタータイプのライバル(千堂武士)
・リーチの短い主人公に対し、長いリーチを利用する敵(間柴了)
・主人公よりもっと小柄なインファイター(島袋岩男)
・デンプシー・ロールの天敵となるカウンターの名手(沢村竜平)
など
主人公の長所・短所を明確にすることにより、主人公がいかにピンチなのか、読者に分からせることができるので、主人公のスペックはある程度明確にしておいた方が良いと個人的には考える。
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本ブログ記事では、「CYBERブルー」は主人公の魅力が乏しいため、打ち切りになったと述べてきた。
しかし、ハリウッドのSF超大作のような雰囲気が、原哲夫先生の画風で表現された迫力、ミュージシャン・プリンス似の元老ガザの顔芸など、決して見所のない作品ではない。
機会があれば、ぜひ「CYBERブルー」を一読して欲しい。