しかし、その実兄であるカイオウを連想する人は少ない。
カイオウがラオウほど魅力的なキャラクターではない理由はいくつか思いつく。
・ラオウの二番煎じ感が強い
・拳法バトルから超能力バトルに変わっていった
・修羅の国編の頃の絵柄が妙に面長過ぎて、カッコよくない
・修羅の国編の導入部で名もなき修羅が強さのハードルを上げたのに、修羅の国に入ると結局、ケンシロウがザコを無双する構図は変わらず、肩透かしを喰らったから
他にもあるだろうが、本記事ではラオウとカイオウ、二人の戦いに至る物語上の動機付けの違いが、二人にキャラの魅力の違いを分けたのではと考える。
以下、ラオウとカイオウがケンシロウと戦う理由について、個人レベルの理由、北斗一門レベルの理由、物語の構造レベルの理由と、三つのレベルで考察していこうと思う。
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個人レベルの理由
ラオウがケンシロウと戦う個人的理由は、ユリアをめぐっての争いである。
幼馴染の兄弟みんなから好意を寄せられるという、タッチの浅倉南ばりに魅力的な一人の女性ユリアをめぐってラオウとケンシロウは戦うのだ。
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対して、修羅の国編でケンシロウが戦う理由は、さらわれたリンを助けに行くためだ。
一方のカイオウも、天帝の血をひくリンに子を産ませようとするのだが、その割にはリンに破孔「死環白」を突くだけで放置している。
ラオウのユリアへの執着に比べて、カイオウのリンに対しての執着はあまり感じられない。
この点は魅力に欠ける一因と思われる。
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北斗一門レベルの理由
たった一人の伝承者に選ばれなかった伝承者候補たちは、拳を封じなければならない掟だ。
先代リュウケンに選ばれなかったラオウはケンシロウを倒して、その実力を示さなければならないし、伝承者ケンシロウは実力でもって、自らが伝承者にふさわしいことを示さなければならない。
そのため、二人は戦わなければならないのだ。
このことは、トキ、ジャギの伝承者候補の義兄弟も承知しているし、南斗水鳥拳のレイも知っている、1800年に及ぶ北斗神拳の掟だ。
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カイオウはラオウとトキの実兄ではあるものの、リュウケンの養子にはなれなかったため、北斗神拳の伝承者候補ではない。
だから、北斗神拳の伝承者をめぐる争いにカイオウは加わることはできない。
カイオウとケンシロウは北斗一門の掟で戦っているわけではないのだ。
北斗宗家に対しての思いを勝手にこじらせて、逆恨みの末、北斗宗家の血をひくケンシロウとヒョウにただただ嫌がらせをしているだけなのである。
挙句、カイオウ自身も実は宗家の血をひいていたというオチ。
結果、カイオウは嫌がらせをするだけの小者にしか見えなくなってしまったのだった。
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物語の構造レベルの理由
「北斗の拳」の物語は、文明の崩壊した世紀末の世界で、“暴力によって弱者から奪おうとする者”と“暴力に抗う弱者”の対立構造によって成立しており、主人公ケンシロウは“暴力に抗う弱者”の味方である。
この構造は、連載第一話から見られる「北斗の拳」全般にわたっての構造だ。
そして、“暴力によって弱者から奪おうとする者”の究極の存在が、世紀末覇者拳王ことラオウなのだ。
ラオウは“暴力によって弱者から奪おうとする者”の代表なので、拳王軍のザコモヒカン一人一人にとっても“暴力に抗う弱者”の味方として対立するケンシロウは、打倒すべき敵なのである。
反対に、“暴力に抗う弱者”から見れば、ケンシロウは希望の星であり、ラオウは弱者を脅かす存在である。
だから、究極的に“暴力によって弱者から奪おうとする者”世紀末覇者拳王ラオウと、“暴力に抗う弱者”の救世主ケンシロウの対決は、「北斗の拳」の物語の集大成といえる。
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さて、修羅の国に話を移すと、ケンシロウが修羅の国を訪れたのはリンを追って行きついたのであり、修羅の国を叩き潰すとか、再生させるとかの目的があったわけではない。
修羅の国の修羅たちからすると、強さを信条とする修羅にとってケンシロウは癪にさわる相手かもしれないが、リンを取り返したら帰っていくであろうケンシロウは命を賭して倒すべき敵ではないのだ。
そして、修羅の国はいろいろと問題は抱えているものの、表面上は羅将たちの統治はそれなりに上手くいっているように見える。
一方のケンシロウの側では、修羅の国の民から「どうしてラオウじゃなくてお前が来たんだ!?」という趣旨の謂れのない非難を受け、民衆からの支持がまったく得られていない。
ケンシロウと戦う理由の薄い修羅の国 vs 民衆からまったく支持されていないケンシロウ。
当然、修羅の国を支配する羅将カイオウとケンシロウの対決も、盛り上がるわけがない。
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と、以上三つのレベルで見たとき、ラオウには確固としてケンシロウと戦うべき理由があり、それが物語を盛り上げ、ラオウを魅力的なキャラクターに仕上げている。
対して、カイオウはケンシロウと対立する理由が薄く、物語的な盛り上がりもイマイチで、それがあまり魅力的に見えない理由ではないかと考える。