カワズまんが研究所

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【考察】強さを数値化する戦闘力システムはどうして破綻するのか? ドラゴンボールがあまり破綻していないのはどうしてか?

 

“戦闘力”は「ドラゴンボール」に登場する、キャラクターの強さを数値化したものである。

この戦闘力システムは、「ドラゴンボール」以外でもバトルものの少年マンガでは、しばしば見られるシステムだが、たいていは評判が良くない。

 

そこで戦闘力システムは、どうして良くないのか、そして「ドラゴンボール」では戦闘力システムが破綻せず比較的機能しているのかを考察していく。

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戦闘力システムの良いところは強さの差がわかりやすくなること

強さを数値化するシステムは、「キン肉マン」の“超人強度”などもあるため「ドラゴンボール」が初出ではない。

だが、ここでは代表例として戦闘力システムと呼称しておく。

 

さて、この戦闘力システムの便利なところは、各キャラの強さの程度が明確になり、その差がわかりやすくなることにある。

 

例えば、キャラAとキャラBではBの方がやや強く、キャラCは二人よりはるかに強いという場合に、

 

A:100

B:105

C:300

 

と強さを数値化すれば、一目瞭然でわかりやすい。

Cとの差は、AとBが束になっても埋まらないほどだということがわかる。

 

この戦闘力システムが最も効果を発揮するのは、新キャラの登場時、「あの強敵より〇倍の強さ」と簡単に強さを表現することができる。

 

このわかりやすさが、戦闘力システムが使われやすい理由だと思う。

 

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戦闘力システムの悪いところは強さの多様性がなくなること

それでは逆に、戦闘力システムの悪いところを見ていこう。

悪いところは強さの多様性がなくなり、強さが一本化されてしまうところである。

 

パンチだけで戦うボクシングにしても、ボクサーの強さを測る指標は、

パンチ力、パンチスピード、リーチ、スタミナ、打たれ強さ、などなど多岐にわたる。

 

強さをパラメータ式に項目ごとに表すのであれば、総合力ではAの方が上だが、長期戦になればスタミナに優るBが有利というように、展開次第でどちらにも勝機があることになる。

 

しかし、シンプルな戦闘力システムでは、強さは一種類しかない。

 

栽培マン:1200

ナッパ :4000

 

上記の数値であれば、どんな展開になったとしても栽培マンに勝ち目はないことになってしまう。

強さが一種類に限定されてしまい、数値が低い方に勝つ方法が無くなってしまうところが、戦闘力システムの悪いところだと思う。

 

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戦闘力システムが破綻しがちな理由①

インフレしやすいから

ここからは、強さを数値化する戦闘力システムが破綻しがちな理由を考えていこう。

 

まず一つ目は、数値がインフレしていくことである。

 

それでは、どうしてインフレしていくのか?

その理由は、インパクトを求めると数字が大きくなりがちだからである。

 

強さ1000の強敵を倒した後、次に登場する更なる強敵の数値はいくつにすべきか考えてみる。

前の強敵より10%増しで強いとなると、それは相当強いことになる。

 

例えは適切ではないかもしれないが、野球の投球速度が10%増しとなると、150km/hが165km/hになるほどの差である。

それほど10%の差は大きい。

 

しかし、強さ1000の敵の後に登場した強敵の数値が1100だと、正直、数字のインパクトに欠ける。

 

そのため、強さ1000の敵の後の強敵の数値は、2000、5000、10000といった大きな数値になってしまうのだ。

 

数値はどんどん大きくなるが、作中の描写ではそこまでの差を感じられなかったりする。

そこが戦闘力システムの破綻を感じる一因だと考える。

 

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戦闘力システムが破綻しがちな理由②

弱い主人公の方が勝ってしまうから

さて、戦闘力システムが破綻しやすい理由の二つ目は、格上の強敵に格下の主人公が勝利する下克上が起こってしまうことである。

こちらの方が一つ目の理由(インフレ)よりも、システムの破綻を起こす要因として大きいと思う。

 

昨今は、主人公がズバ抜けて強い主人公無双の作品も少なくないが、バトルものの少年マンガでは主人公が自分よりはるかに強い敵に挑んでいくのが基本だ。

 

この自分よりはるかに強い敵に勝利する展開は、ベタだが、とても盛り上がる展開である。

しかし、これをやってしまうと、戦闘力システムは破綻してしまう。

 

超人強度95万パワーのキン肉マンが、1億パワーの強敵に勝利すると、超人強度という数値があまり意味のない数字になってしまうからだ。

 

だが、格下の主人公が下克上を果たすのは読者が求む熱い展開である。

これはバトルものの少年マンガに限らず、他ジャンルの作品でもある王道展開だ。

 

スポーツものなら、弱小校が強豪校に勝利するのは有り勝ちな王道展開だ。

小さな町工場が大企業を見返す「下町ロケット」も、同じ構造である。

 

この下克上展開が、戦闘力システムを破綻させている要因だと思う。

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ドラゴンボール」は“戦闘力が高い者が勝つ世界”

ドラゴンボール」もバトルものの少年マンガらしく、主人公より強い敵に挑む展開は何度もあるのだが、あまり戦闘力システムが破綻している印象はない。

 

ここからは「ドラゴンボール」の戦闘力システムが破綻を回避している理由について考えていく。

 

さて、その理由を考える前に、「ドラゴンボール」の作中における戦闘力システムの位置づけについて確認しておこう。

 

“戦闘力”という強さを数値化する概念は、悟空の兄・ラディッツが登場した17巻から使われており、フリーザとの戦闘くらいまでの間の約10巻ほどで出てくる。

全42巻のうちの10巻ほどなので、作中の4分の1ぐらいでしか出てこないことになる。

 

しかし、ラディッツが登場する前やフリーザ編より後でも、“戦闘力”の概念は存在していると思う。

 

例えば、少年時代の悟空は桃白白に最初の戦闘で敗北する。

その後、カリン塔に登り、カリン様の修行の後の再戦では勝利を収める。

 

これは、最初の戦闘時に二人の戦闘力が

桃白白 > 悟空

だったのが、修行後には

悟空 > 桃白白

になったため、悟空が勝利したのだ。

 

格下が格下のまま格上の強敵に勝利したのではなく、敵の戦闘力を上回ったから勝利したのだ。

 

これは、その後のピッコロ大魔王戦でも同じである。

 

さらに、悟空よりケタ外れに強いフリーザに勝利したのも、超サイヤ人に覚醒してフリーザの戦闘力を超えたから勝利したのであり、完全体セルに勝利したのも、覚醒した悟飯の方が戦闘力が上回ったからである。

 

以上のように、「ドラゴンボール」は“戦闘力が高い方が勝つ”というルールが徹底されている。

戦闘力が低い方がたまたま勝つという展開は、ほぼ見られない。

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ドラゴンボール」の戦闘力システムが破綻を回避した策

それでは、どのようにして「ドラゴンボール」は“戦闘力が高い方が勝つ”というルールが徹底できているのか。

 

ドラゴンボール」では、“戦闘力が高い方が勝つ”というルールを守りながら、戦闘力で劣っている主人公側が勝つために以下のような策を講じている。

 

①最初は戦闘力で下回っていた主人公側が、戦闘力を上げる。

 

修行する、界王拳を使う、覚醒する(超サイヤ人など)、合体する(ポタラフュージョン)、など。

 

②敵の戦闘力が下がる。

 

魔人ブウの融合(悟飯、ピッコロらとの)が解除される、など。

 

③一人では勝てないので、複数人で戦う。

 

悟空とピッコロで挑んだラディッツ戦など。

大勢の人や自然物の気を集める元気玉の使用も含む。

 

これらの集大成と言えるのが、地球襲撃時のベジータ戦だ。

 

界王拳を使って悟空が自分の戦闘力を上げ(上記①)、

10倍の戦闘力になる大猿状態を解除させ(上記②)、

クリリン、悟飯、ヤジロベーとともに元気玉を使う(上記③)と

3パターンのすべてを使っている。

 

他のバトルマンガにありがちな、強さでは敵わず、正面きっての戦闘では勝てないが、敵の唯一の弱点をついて勝利する、というパターンはほぼ見られない。

 

上記①~③のどれかを使って、戦闘力の低い主人公側が、何らかの形で敵の戦闘力を上回って(複数人での合計の場合も含む)勝利するのだ。

 

ドラゴンボール」はこのパターンなので、“戦闘力が高い方が勝つ”というルールを遵守したまま、主人公側を勝たせることができるのだ。

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戦闘力システムと引き換えに強さの多様性を失った「ドラゴンボール

以上のように、“戦闘力が高い方が勝つ”という戦闘力システムを使っている「ドラゴンボール」だが、初期のギャグ路線のときはそうではなかった。

 

悟空のアドバイスクリリンが勝利したバクテリアン戦、戦闘力のないウパとプーアルが作戦勝ちしたドラキュラマン戦、どんな攻撃も弾き返すが凍らせることで、その能力を封じたブヨン戦など、必ずしも強さだけで勝敗が決していなかった。

 

途中からの本格バトル路線になってからは、そのような戦いはあまり見られないと思う。(例外は魔人ブウ編のヤコン戦くらい?)

 

ギャグマンガ路線の頃の方が戦いや強さに多様性があり、本格バトルマンガ路線になってからは、戦闘力の多寡だけで勝敗が決するシンプルなスタイルになってしまったのは皮肉な気がする。

 

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