「ゴージャス★アイリン」は「ジョジョの奇妙な冒険」でおなじみの荒木飛呂彦先生のデビュー作を含めた初期の短編集である。
この短編集の収録作品のあらすじについて紹介していこうと思う。
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●ゴージャス★アイリン 大女の館の巻
(1985年 週刊少年ジャンプ 特別編集Autumn Special掲載)
●ゴージャス★アイリン スラム街に来た少女の巻
(1986年 週刊少年ジャンプ 特別編集スーパージャンプ12月20日増刊号掲載)
ストーリー
<大女の館の巻>
大きな屋敷に住むアイリンは可憐な16歳の少女だが、その裏の顔は化粧により変身する残忍な殺し屋だった。
ある日、父を殺された洋服屋の息子が町を支配する大女ローパーの暗殺を、アイリンに依頼する。
<スラム街に来た少女の巻>
殺し屋だったアイリンの父を殺した組織がアイリンの命を狙ってくる。
召使のじいやも殺され、味方のいなくなったアイリンは逃げ込んだスラム街でミュージシャン志望の青年マイケルと出会う。
二人に組織の刺客が襲って来る。
「バオー来訪者」の連載後、「ジョジョの奇妙な冒険」の連載開始までの間に発表された作品。
「わたし 残酷ですわよ」の決めゼリフや、化粧を使った催眠術の能力は、さすが荒木作品というところ。
アイリンはイタリアンマフィアの血をひくという設定。
この辺りの背景の設定は、ジョジョ第5部「黄金の風」とも共通する点。
本作については連載の話があったそうだが、先生自身、闘う女性が主人公の少年マンガに抵抗があったため、連載には至らなかったとのこと。
「大女の館の巻」「スラム街に来た少女の巻」で、ストーリーや雰囲気が大きく違っているので、荒木先生の中でも試行錯誤があったのかもしれない。
結局女性主人公は、本作より10年以上後のジョジョ第6部「ストーンオーシャン」まで待たなければならなかった。
個人的には、ストーンオーシャンの頃の筋肉質っぽい身体の描き方より、アイリンの頃の方が線が柔らかくてエロく感じる。
ロリ美少女が、グラマラスでセクシーなお姉さんに変身するというのも、性癖に刺さる人がそれなりにいそう。
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●魔少年ビーティー
(1982年 フレッシュジャンプ3号掲載)
ストーリー
ビーティーは12歳にして悪魔的頭脳を持った罪悪感ゼロの犯罪少年。
そんな彼が密かに憧れている上級生の少女に、ルポ・ライター殺害の疑いがかかる。
ビーティーは殺人現場に忍び込むと、彼女を無罪にする証拠を探し始める。
後に連載デビュー作となる「魔少年ビーティー」の読切パイロット版。
語り手の公一いわく、今回の「有罪くずし事件」はビーティーの行動にしては比較的“静か”とのこと。
容疑者の無実を信じて行動するのではなく、証拠がなければ身代わりの犯人をでっちあげてでも、少女を無罪にしようとするのが、ビーティーのキャラクターである。
およそ真っ当な少年マンガの主人公の性格ではない。
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●バージニアによろしく
(1982年 週刊少年ジャンプ8月1日増刊号掲載)
ストーリー
運送船デリンジャー号は、金星と地球ステーション間の片道158日の飛行を続けていた。
乗組員はヒロシと船長の二人と、あとはロボットだけ。
あるとき、謎の人物からデリンジャー号に爆弾を2つ仕掛けたとの通信が入る。
始めは冗談と一笑に付したヒロシだったが、船内で爆発が発生。
ヒロシと船長は残りの爆弾「バージニア」の解除に挑む。
宇宙船の中という密室空間でのサスペンス。
荒木先生が宇宙モノのSF作品を描いているというのが意外。
しかし、爆弾解除の過程で次々に不測の事態が発生するサスペンス展開は、やはり荒木作品。
デリンジャー号のコンピュータの名前がボニー、ロボットの名前がクライドというのは、やはりボニーとクライドが元ネタだろう。
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●武装ポーカー
(1981年 週刊少年ジャンプ1号掲載・第20回手塚賞準入選作品)
ストーリー
保安官もおらず隣町からも離れ無法地帯となったある町に、二人の男が現れる。
二人は、どちらも1万ドルの賞金をかけられた悪党ながら、優れた拳銃の腕前で賞金稼ぎを返り討ちにしており、誰も彼らの首を獲る者はいなかった。
拳銃だけでなくトランプにも自信がある二人は酒場で出会うと、ポーカーで勝負をすることに。
片方の悪党が、ポーカーの賭けのカタに互いの拳銃を賭けることを提案。
二人の命を付け狙う賞金稼ぎたちが大勢いる中で、命がけのポーカー勝負が始まる。
手塚賞準入選のデビュー作。
二人の無法者が互いの拳銃(武装)を賭けてポーカーをする話。
31ページの制約があったためか、ポーカーのイカサマの詳細が描かれなかったのが少し残念。
その反省のためかは不明ながら、「魔少年ビーティー」などではトリックのタネがきっちり解説されている。
主人公は二人の悪党だが、一人はワイルド系、もう一人は知性的と悪党のキャラが描き分けられている。
この頃は、緊張感のある場面でも、まだドドドドといった擬音は使っていない。
「荒木飛呂彦の漫画術」では本作の構成について語られている。
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●アウトロー・マン
(1982年 週刊少年ジャンプ1月10日号掲載)
ストーリー
社会からはみ出した男「アウトロー・マン」は負傷をしながらも、西部の荒野を逃亡していた。
そんなアウトロー・マンをピンカートン探偵社の一行が追跡する。
追う者、追われる者、互いに策謀を巡らすのだった。
デビュー2作目。
本作は集英社の移転の際に原稿を紛失した可能性が高く、本作収録に当たって掲載された雑誌の誌面からデジタル復刻したため、画質は荒い。
この「アウトロー・マン」は愛蔵版の刊行の際に復刻されたため、「ゴージャス★アイリン」の単行本でも1987年刊行のコミックス版では「アウトロー・マン」は収録されていない。
古本屋で見つけたときには収録されていなかったりするので、ご注意を。
追う者たちと追われる者の駆け引きがメインになっており、どうして主人公が追われているのかといった人物の掘り下げは、ほぼ描かれない。
デビュー1作目、2作目とも西部劇が舞台だったわけだが、まさか第7部「スティール・ボール・ラン」につながっていくとは、20代の頃の荒木先生も考えていなかっただろう。
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こうして見ると、イタリアン・マフィア、女性主人公、西部劇と、後のジョジョシリーズにも描かれた要素が、初期の頃から荒木先生の中にあったことが分かる。
そう考えると、「バージニアによろしく」で宇宙モノを描いているのだから、今後、宇宙を舞台にしたジョジョが描かれる可能性もゼロではないのかもしれない。
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荒木先生 年表
1960年 生まれ
1982年 「アウトロー・マン」発表
1982年 「バージニアによろしく」発表
1982年 「魔少年ビーティー」連載開始
1985年 「ゴージャス★アイリン 大女の館の巻」発表
1986年 「ゴージャス★アイリン スラム街に来た少女の巻」発表
1987年 「ジョジョの奇妙な冒険」連載開始