吾峠呼世晴短編集に収録された「過狩り狩り(かがりがり)」を読んだので、その感想などを記していく。
●「鬼滅の刃」のプロトタイプ
「過狩り狩り」は2013年のJUMPトレジャー新人漫画賞佳作を受賞した吾峠先生のデビュー作である。
本作は後の「鬼滅の刃」のベースになった作品であり、以下のような点が「鬼滅の刃」にも通じる設定になっている。
・明治~大正の時代設定
・人間社会に潜み、人間(の血)を食糧にする鬼の存在
・「悪鬼滅殺」と彫られた刀での鬼狩り
・罠だらけの山中での修行
・鬼が複数体いる森を生き延びるのが鬼狩りの最終試練
・人語を喋るカラスが次の任務を告げる
・鬼の珠世と愈史郎の存在
鬼狩り(作中では「鬼狩り」の呼称はなく「狩猟者」とだけ呼ばれている)になるための修行や最終試練について、少ないページ数で描かれているので詳細までは分からない部分はあるものの、ほぼ「鬼滅の刃」で描かれていたのと同じになっている。
珠世と愈史郎についても、「鬼滅の刃」に出てくる二人とほぼ同じである。
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●ジャンプのバトルマンガでは定番中の定番の設定
さて、そんな「過狩り狩り」だが、ストーリーを端的に説明すると
「人間社会に潜む鬼を、流れ者の主人公の鬼狩りが狩る話」と言える。
メチャクチャ強い流れ者が、敵を倒して去っていくというストーリーはマンガに限らず、映画の時代劇や西部劇でも定番の設定である。
また、「流れ者の主人公が化け物を倒して去っていく話」は、ジャンプのバトル物の読切作品で散々描かれてきた定番中の定番のストーリーと言える。
しかし、そんな定番中の定番、ベタ中のベタなテーマを扱いながら、「過狩り狩り」には凡庸な印象はまったく受けない。
独自の世界観のように感じられるのだ。
それは「過狩り狩り」が、ジャンプのバトル読切のオーソドックスな描き方と逸脱した描き方をされているからだと考える。
それでは「過狩り狩り」が同じようなテーマの読切とどこが違うのか、自分が思うことを書いて行こうと思う。
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●主人公がなかなか出てこない
「過狩り狩り」の1ページ目は扉絵になっており、鬼狩りの主人公の全身が描かれている。
しかし、周囲を飛ぶカラスの翼に隠れて、主人公の顔が隠れてしまっている。
サスペンス系やホラー系の作品で、演出的な意図やネタバレになるとの理由で、あえて主要キャラの顔を隠すパターンはあるが、バトル物ではあまり見ない演出だ。
バトル物の読切であれば、主人公がカッコよくポーズを取っているのが定番である。
そして、2ページ目は、腹をすかせた浮浪児が何者かに拾われるシーンが描かれる。
これは鬼狩りになる主人公の子供時代の過去シーンだと後で分かるのだが、説明がないので、初見では主人公だと伝わりづらいシーンである。
3ページ目は、時系列としては現在、鬼が一家を惨殺するシーン。
4~5ページは、現在鬼狩りとなった主人公が事件のあった町に現れるシーンだが、主人公の顔はここでも描かれていない。
結局、主人公の顔がまともに描かれるのが、28ページ目(全45ページ)とかなり遅い。
多くのマンガの描き方の本などでは
「最初の数ページで、読者に主人公を好きになってもらう/興味を持ってもらう」と書かれているのだが、「過狩り狩り」は完全にこのセオリーを無視している。
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●事情を知らないヒロインを出すのが定番
この手の読切作品では、事情を知らない(本作で言えば鬼のことを知らない)読者視点のキャラ(主にはヒロイン)を出すのが定番である。
この事情を知らないヒロインに向かって「鬼とは、こういう化け物で~」「自分はその鬼を狩って全国を旅していて~」と、主人公が説明をすることが、マンガを読んでいる読者に対しての説明にもなっているのだ。
だが、「過狩り狩り」では事情を知らないヒロインは出てこない。
この辺も定番から外れた描き方だと思う。
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●鬼視点で描かれる前半
主人公がまともに出てくるのが、全体の3分の2を過ぎる辺りから、さらに読者視点のキャラが登場してこない「過狩り狩り」なのだが、では主人公が出てくるまで誰視点で話が進むかというと、それは敵役である鬼の視点だ。
「過狩り狩り」は、外国からやってきた鬼が人を手当たり次第に殺めていて、鬼狩りに目を付けられることを懸念した地元の鬼たち(珠世・愈史郎コンビと時川)が、その外国の鬼を始末しようとするのが前半のストーリーとなっている。
この珠世・愈史郎コンビと時川という鬼が会話している雰囲気は、ヤクザ映画やギャング映画のそれであり、あまり少年ジャンプの雰囲気ではない。
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●クライマックスシーンが主人公の必殺技ではない
この手のバトルマンガの読切でのクライマックスは、主人公が化け物を倒す必殺の一撃を繰り出すシーンとなっているのが定番である。
2ページ見開きで大きく描かれることが多い。
ところが、「過狩り狩り」では主人公が鬼の首を斬るシーンは、大きめのコマで描かれてはいるものの、そこまで大きくは描かれていない。
では、どのシーンをクライマックスにしているかというと、それは主人公の鬼狩りが戦いの場に現れたシーンだ。
時川たちと外国の鬼が激闘を繰り広げているところに音もなく現れ、隻腕で刀をスーっと抜いているシーンが最も大きく描かれているのである。
前述の通り、主人公の顔は本作でなかなか描かれない。
まともに登場するのが、このクライマックスシーンなのだ。
初めて登場するのがクライマックスシーン、さらにここまで鬼視点で物語が描かれていたので、主人公の登場が言葉にはされていないものの
「ヤバいヤツが現れた!」という印象を与えるのである。
吾峠先生は迫力のあるアクションが得意なマンガ家とは言い難い。
だからこそ、鬼の首を斬るシーンではなく、鬼狩りの出現シーンをクライマックスとしたのではないかと考える。
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●王道なのに独自路線
さて、ここまで「過狩り狩り」が定番の設定ながら、他の作品とは一線を画する独自路線であることを説明してきた。
それは「鬼滅の刃」にも受け継がれていると思う。
個人的に、最も少年マンガらしい主人公は「NARUTO」のうずまきナルトだと思っている。
誰にも優しく正義の心を持ち、熱い情熱を持っている一方、退屈な座学はサボったり、しょうもないイタズラを仕掛けたりと悪ガキ的な一面も持っている。
そういう悪ガキ的な面や劣等生的な面を持っているのが少年マンガの主人公の王道だと思うのだが、「鬼滅の刃」の炭治郎はクソがつくほど真面目な性格をしている。
普通は、真面目過ぎる主人公は面白みがないので、避けられがちなのに「鬼滅の刃」では大成功をしている。
他にも、王道のバトルマンガではやらないことをやっていたり、逆にやりがちなことをやらなかったり(例えば、これまでに戦った強敵が味方になったりなど)と、「鬼滅の刃」は王道を進みながらも、独自路線を走っているように思う。
この王道なのに独自路線というのが、吾峠先生の持ち味なのだと考える。
「過狩り狩り」が気になった人は、ぜひ吾峠呼世晴短編集を読んで欲しい。
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●短編集に収録の他作品
吾峠呼世晴短編集には「過狩り狩り」以外にも、下記の三作品が収録されている。
虫の能力の人外・殺し屋兄弟を描く「文殊史郎兄弟」。
邪氣に憑りつかれた人間と、その邪氣を浄化する能力を持つ「肋骨さん」。
人を呪い殺す呪殺屋と呪いを解く解呪屋が戦う「蠅庭のジグザグ」。
「過狩り狩り」以外の三編はいずれも現代日本が舞台になっている。
現代日本が舞台なので、登場人物もほとんど洋服なのだが「蠅庭のジグザグ」のヒロインは知人の結婚式に向かう途中ということで着物姿である。
ストーリーの都合上は、着物姿である必要は特にない。
スカートやズボンの洋装でも何の問題もないはずなのだが、なぜか着物姿である。
「鬼滅の刃」の禰󠄀豆子にも通じることなのだが、おそらく吾峠先生は
「着物の裾が捲れて、女の子の太ももが露わになる」というシチュエーションがお好きなのではないかと推察する。