●餃子(チャオズ)が消えた理由は顔?
「ドラゴンボール」の作中、「人造人間・セル編」で
「餃子はオレがおいてきた
修行はしたが ハッキリいって この闘いには ついていけない」
との天津飯のセリフとともに餃子(以下、チャオズと記載)は以降、フェードアウトしていくことになる(アニメ等は除く)。
確かに「人造人間・セル編」、次の「魔人ブウ編」では、天津飯が気功砲で少し活躍するくらいで、ヤムチャら純粋な地球人は戦力として活躍するシーンがほぼない。
そのため、実力的にチャオズが第一線から退くのは、妥当な判断と言える。
だが、チャオズ退場の理由は、それだけではないのではないかと考える。
作中の理由ではなく、メタ的な理由にはなるが、チャオズが「ギャグ顔」のキャラデザインだったのが、理由ではないだろうか?
「ドラゴンボール」では、天津飯がナッパに腕を切断されたり、幼少の悟飯がリクームに首の骨をへし折られたりと、グロ描写が少なくない。
特に「人造人間・セル編」は、人造人間20号が一般人の男性の首を握りつぶしたり、ヤムチャが胴体を貫かれたり、セルが一般人を溶かすように吸収したりと、グロ描写が最もキツいシリーズである。
そのグロ描写がキツい展開の中で、シリアスで痛々しい「ダメージ顔」ができないチャオズはリストラされたのではないかと推測する。
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●シリアスな「ダメージ顔」の描写がないチャオズ
さて、チャオズは本当にシリアスな「ダメージ顔」ができないのだろうか?
チャオズのまともな戦闘描写があるのは、天下一武道会のクリリン戦だ。
この戦いで、チャオズはクリリンから強烈なボディブローを喰らったり、最後のパンチで壁に激突させられたりする。
しかし、この時の表情は、目玉がボンッと飛び出たギャグマンガ様式の「ダメージ顔」である。
(その前のクリリンとの序盤戦は、ほとんど無表情)
顔面パンチで頬がひしゃげたり、苦痛で顔を歪めたりといったシリアスなバトルマンガでの「ダメージ顔」ではない。
このクリリン戦後、チャオズもいくつか戦闘をすることになるが、いずれも「ダメージ顔」の描写はないのだ。
・ピッコロ大魔王戦
神龍に先に願いを叶えようとして、一撃でピッコロにやられる。
一瞬でやられたため、苦痛の「ダメージ顔」にはなってない。
・桃白白戦
サイボーグ化した桃白白と天下一武道会の予選で対戦。
チャオズの失神KOという結果だけが描かれ、戦闘の描写は省略。
「ダメージ顔」はない。
・サイバイマン / ナッパ戦
サイバイマンとの戦闘はなし。
ナッパからの攻撃も受けておらず、ナッパの隙をついて背中に張り付き自爆。
「ダメージ顔」の描写はない。
と、以上の様にマンガの作中で、チャオズのシリアスな「ダメージ顔」は描かれていないのだ。
さて、ここからはシリアスなバトルマンガに似合わない「ギャグ顔」チャオズというキャラがどうして生みだされたのか、その経緯について考察していこう。
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●元々、ギャグ路線のマンガ「ドラゴンボール」
少年ジャンプの場合、シリアスなストーリーマンガは19ページ/週、ギャグマンガは15ページ以下/週というのが基本(例外あり)だ。
「ドラゴンボール」は、ギャグマンガ枠として、基本15ページ/週のページ数で連載を開始し、終盤までそれは変わらなかった。
ところが内容的には、途中から地球の命運を賭けたシリアスなバトルマンガに路線変更をしている。
このギャグ→シリアスへの路線変更はいきなり変更したわけではない。
いくつかの転換点を経て、路線変更をしているのだ。
それでは、その路線変更の経緯を見ていこう。
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●シリアス路線への最初の転換点は桃白白戦
「ドラゴンボール」も「レッドリボン軍編」のマッスルタワーくらいまでは、完全なギャグ路線で間違いない。
忍者のムラサキ曹長とのバトルは、バトルといっても完全にギャグマンガのノリだ。
シリアス路線への最初の転換点は、「レッドリボン軍編」の桃白白戦からだと考える。
世界一の殺し屋にして武道家の桃白白は、初登場時に悟空たちが苦戦していたブルー将軍をベロだけであっさり「殺し」て、その実力を読者に見せつける。
その少し前には、桃白白戦の舞台になる聖地カリンで、聖地を守護するボラ・ウパ父子の父ボラが、ドラゴンボールを狙って襲ってきたイエロー大佐の部隊の兵士を「殺し」ている。
この辺りから、「殺す」という描写が明確に描かれることになる。
それまでは、フライパン山の牛魔王が近辺で暴れていたり、ホワイト将軍がマッスルタワーの近くの住民に暴力を振るっていたりと、設定上は非道なことをしていることになっているが、具体的な描写は出てこなかった。
しかし、桃白白の登場くらいから「殺す」という描写が出てくる。
ここで一段階、シリアス度が上がっている印象を受ける。
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●占いババの館・ピラフ一味との対決では、再びギャグ路線へ
桃白白戦で一段階シリアス度が上がった「ドラゴンボール」だが、レッドリボン軍との戦いに勝利した後の占いババの館での5人の選手との対戦、最後のボールを巡ってのピラフ一味との対決では、上がったシリアス度が、再び元に戻ったような印象を受ける。
亀仙人の鼻血で透明人間の姿をとらえたり、悟空が下半身丸出しでピラフ一味と戦ったりしているのは、シリアスなバトルとは思えないからだ。
このシリアス路線とギャグ路線が混在しているのは、鳥山先生の中で、従来のギャグ路線のままで行くか、シリアス要素を増やしていくかの葛藤があったのではないかと推測する。
そして、この後は作中2度目の天下一武道会(第22回天下一武道会)になるのだが、そこで悟空たち亀仙流のライバル役として登場するのが鶴仙人の二人の弟子・天津飯とチャオズなのだ。
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●ギャグ路線の敵・チャオズと、シリアス路線の敵・天津飯
ギャグ路線とシリアス路線の葛藤の中、登場したチャオズと天津飯は、ギャグ路線とシリアス路線のそれぞれの敵として設定されたのではないかと推測する。
天下一武道会でのチャオズの戦いは、チャオズvsクリリン戦の一戦のみだ。
このクリリン戦では、チャオズがどどん波という同じ技を使うことから、悟空が桃白白の仇であることが判明するシリアスな一面も有しているが、戦いそのものはギャグ要素が強い。
簡単な計算問題を指折り数えている間は、強力な超能力が使えないというのは何ともバカバカしいギャグ展開だ。
一方、天津飯はシリアス路線一辺倒だ。
初戦のヤムチャ戦は、純粋な格闘戦。
最後にはヤムチャの脚が折られて、あらぬ方向に曲がるというギャグマンガには通常ない痛々しいダメージ描写が出てくる。
続くジャッキー・チュン(亀仙人)戦、悟空戦でも、戦いはシリアスだ。
唯一、ママさんバレー口調になってしまう排球拳を使うシーンだけがギャグになっているが、そこ以外は、師の提示する殺し屋の道と、自分の信じる武道家の道の狭間で天津飯が苦悩するというシリアスな展開になっている。
(余談だが、ギャグシーンがここしかないためか、アニメでの排球拳のシーンは声優の演技もあいまって、よりギャグ度が強くなっている)
このシリアスな天津飯というキャラとの戦いを描く中で、鳥山先生にシリアスを描く手ごたえを感じたのか、読者がシリアスでもついてくる実績を得られたからかは分からないが、天下一武道会後、ピッコロ大魔王の部下・タンバリンにクリリンが殺害され、シリアスなバトルマンガに路線変更することになる。
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●もしも天津飯のシリアス路線がハマらなかったら……
と、以上見てきたように、シリアスな敵・天津飯とギャグの敵・チャオズを試金石として、その結果、「ドラゴンボール」のシリアス路線が確定し、ギャグキャラのチャオズは不要となったのではないかと推測してきた。
もし、天津飯のシリアス展開がいまいちハマらなかったら、「ドラゴンボール」はシリアスに行かずに、ギャグ強めの路線になって、チャオズがもっと活躍する未来があったかもしれない。