「キャプテン翼」の「ワールドユース編」が連載打ち切りになった理由を考察していく。
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理由(3):大空翼が一強すぎる
Jr.ユース編の頃は、中学生編でしのぎを削ったライバルたちが一つのチームにまとまるというドリームチームといっても良いチーム編成だった。
中学生編で優勝した翼が総合力では一番であるものの、突破力なら日向小次郎、短期での爆発力なら三杉淳、パワーなら次藤洋と、得意とするところではライバルたちが勝っている印象で、総合力の差もわずかなものに感じられた。
しかし、「ワールドユース編」においては、高校サッカーレベルのライバルたちに比べ、プロの第一線で技術を磨いた翼の能力はズバ抜けたものになってしまっていた。
日向が苦労して編み出した雷獣シュートは、あっさり翼に使いこなされてしまっていたし(スカイウイングシュート)、三杉は忘れかけたころにちょっと活躍する程度だし。
翼一強のチーム編成だと2点ストーリーとしてよろしくないことがあり、1点は結局、翼がなんとかしてしまう展開ばかりになってしまうこと、もう1点は翼が負けられないことである。
例えば、ウルグアイユース戦において、日向の雷獣シュートは、火野竜馬のトルネードシュートと違い、空中のボールをシュートできないという弱点が発覚する。
しかし、日向は翼、次藤のフォローにより、その弱点を克服してシュートを決めることに成功という展開があった。
日向は敵チームの火野に敗れても、翼のフォローで勝つことができるが、チーム内でダントツの実力の翼が敗れるとフォローできる選手はいない。
実際、ブラジルユース戦で翼を越える存在のナトゥレーザが現れたが、翼本人が自力で一対一の空中戦を制す結末で、フォローできる選手はいなかった。
「ワールドユース編」での新キャラだった葵新伍の存在も、翼に憧れるだけで、翼一強をより印象深くする要因となった。
登場初期の新田瞬みたいに、年下ながら翼にバリバリ敵対心を持つキャラだったら、少しは変わったかもしれない。
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理由(4):大味な試合展開
この点に関しては、アジアユースのクライマックス的位置づけの中国ユース戦で特に顕著だったと思う。
中国ユース戦の前半は、ゲームメーカーの呉俊仁、サイドからセンタリングを上げるテクニシャンの王忠明、圧倒的な高さの飛翔と、個性的なライバルキャラたちが組織的に機能していたのだけど、後半に相手のシュートを倍加して返す反動蹴速迅砲の肖俊光が登場してからは、見開きで強烈なスーパーシュートを撃ち合うだけの試合展開でとても単調だった。
上記の翼一強の状態もあって、他の試合も結局翼が一人で何とかしてしまう展開ばかりだったように思う。
加えて、ワールドユース本戦のストーリーは駆け足になってしまったので、ライバルキャラの掘り下げが浅く、ライバルの魅力を引き出せてなかった。
メキシコユースのアステカ太陽の5戦士について、巨漢でみんなの踏み台になったガルシア以外の4人のメンバーを覚えている読者は少ないだろう。
さらに、試合のストーリー展開だけでなく、マンガの描き方も大味になったように思う。
「キャプテン翼」の特長のひとつは、Wikipediaにも記載のコマ割りにある。
プレーの俯瞰図で全体を、プレーヤーの全身で選手を、周りのキャラで他の人物のリアクションを、それぞれを枠線で区切った別コマで並べるのではなく、見開き2ページの中に全部を入れる特徴的なコマ割りをしている。
このコマ割りを用いることで、ダイナミックな迫力とスピード感を持ちながら、複数のカメラの視点でリプレイをするテレビ中継と同じような視点を持つことを可能にしていた。
それが「ワールドユース編」では、そのダイナミックなコマ割りが減少。
1ページや2ページ丸々で1コマという単純な表現が増えた。
(この傾向は「ワールドユース編」以降でさらに強くなり、マンガとしての情報密度はどんどん薄まっている)
作画が大変にはなると思うが、無印版のころのコマ割りを多用して欲しい。
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次回は、ライバルキャラの扱いについて。