賀茂監督の手腕について考察するシリーズも今回で最終回。
今まで考察してきたことの総括と、マドリッドオリンピックのU-22監督の吉良監督との違いから見ていく。
・選手指導
賀茂監督の指導は、とにかくハードワークをさせて鍛えるという、今では時代錯誤といえる指導法。
岬、日向ら合宿離脱軍7人の欠点は指摘したが、課題の改善については、自分で考えるよう、ほぼ突き放したやり方。
一方の吉良監督について、指導方法の詳細は分からないが、明和FCの監督として、日向小次郎、若島津健、沢田タケシを育て上げ、沢木ら他の選手についても小学校卒業後の明和東中学で、全国ベスト4の結果を残すトップ選手に育て上げている。
吉良監督は、小学校を卒業し、自分の手を離れた日向のことも気にかけるなど、情にも厚い。
また、中学の都大会での日向のプレーから、精神的な甘さがあることを指摘した上で、自分のところに来るように提案、日向が国際Jr.ユースでヨーロッパに向かったときには、通常の3倍の重さのブラックボールを授けてキック力を上げるよう、賀茂監督より選手の状態に応じた適切な指導をしているように思える。
選手の起用法について、Jr.ユースの見上監督は三杉の進言を受け、松山をMFからDFにコンバート、U-22の吉良監督は、GKの若島津をFWとの二刀流起用、3M(岬、三杉、松山)の色んなパターンを試して、最適なポジションを探るといった、選手のポテンシャルを考えた起用法をしている。
しかし、賀茂監督には、そのような選手の伸びしろを考えた起用はしていない。
せっかく個人技を身に着けた立花兄弟を、従来のスカイラブ要員としてしか使わないことに、顕著にその傾向がみられている。
とにかく、身体を鍛えて、ゾーンプレスしろ、という自分の考えた戦略ありきの指導である。
選手の個性はあまり考慮しない。
大空翼以外は、自分の戦略を成し遂げるためのコマと見ている印象を受ける。
スウェーデン戦では、殺人シュート・レヴィンシュートを何発も喰らい、数か所骨折の赤井を、「今の良い流れを壊したくない」という理由で使い続けた。
赤井の今後の選手生活を考えたら、そこは交代させるべきだったのではと思う。
しかしながら、浦辺を短期間でレベルアップさせるなど、ハードワークで伸びる選手もいるので、一概にダメな指導法とは言い切れない部分もある。
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・チーム戦術
前述したが、賀茂ジャパンの戦術は、複数人でプレスをかけ、ボールを奪ったら大空翼にすぐボールを渡して、攻撃の拠点とするジャパニーズ・ゾーンプレスである。
翼一人に頼り切った戦術で、翼が封じられたブラジル戦では、手も足も出ない状況に陥るというお粗末さであった。
そこまでは仕方ないとしても、翼が何らかの理由でダメだった場合の第二案、第三案をまったく考えてないというのは、指揮官として問題である。
その点、U-22の吉良監督は、海外組(翼、日向、葵ら)抜きでアジア予選を突破していて、翼依存ではないし、様々な戦術を試すなど、一つの戦術にこだわらない柔軟さを持ち合わせている。
さらに、指揮官としてダメなのは、劣勢になるとすぐに諦めてしまうことである。
アジア1次予選のタイユース戦では、岬ら主力7人の放出に加え、葵の到着が遅れたときには、「おれの責任だ」と肩を落とす、
決勝のブラジル戦では、ハーフタイム中に「このわしにも打つ手は見つからん」と選手に弱音を吐くという体たらく。
タイユース戦では、葵が何とか間に合い、見上前監督と若林が来たことで、危機を脱し、ブラジル戦では、交通事故に遭った岬が現れたことで、勝利することができた。
どちらも、周りの誰かが助けてくれたので、何とかなった事例で、賀茂監督は何も対策が取れなかった。
賀茂ジャパンがワールドユースを制覇できたのは、選手の力と賀茂監督の運の良さによるところが大きいように思う。
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・スカウティング
賀茂監督がスカウトした選手で、ワールドユースで活躍したのは、葵新伍くらい。
火野竜馬や他のリアル・ジャパン・11のメンバーは、チームには合流しなかった。
フットサルコンビ(古川洸太郎、風見信之介)や曽我佑二は、賀茂監督のユース代表は固辞したのに、吉良監督のU-22代表については参加しており、吉良監督に比べ賀茂監督は人望がないのではないか、と推察される。
とはいえ、葵の足をみただけで実力を見抜いたりと、選手を見る目は確かと言っても良いかもしれない。
以上、総括してみたが、良いところは少ないように思う。
よく、ワールドユースを制することができたものだ。
一方で、考察すればするほど吉良監督の評価がどんどん上がる結果。
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次回からは、「石崎くんはサッカー日本代表にふさわしい実力か?検証」の企画に戻って、アジア1次予選から。