マンガには魅力的な悪役の存在が欠かせない。
「DRAGON BALL」のフリーザ、「北斗の拳」のラオウ、「ジョジョの奇妙な冒険」のDIOなど、枚挙にいとまがない。
悪役を魅力的に見せる要素はいくつもある。
宇宙最強、不死身などの強さの設定、カリスマ性を感じさせる外見・口調、冷酷無比な性格など。
これは個人的な見解であるけれども、ヘラヘラして軽薄に見えるのに実は強い、というキャラよりも、悪役キャラは冷静沈着で重厚さがある方が、強キャラとして魅力的に映る気がする。
さて、その点を徹底しているのが、「聖闘士星矢」「リングにかけろ」の車田正美先生の作品であると思う。
車田作品の悪役キャラは、あまり表情豊かではない。
それは手抜きなのではなく、ささいなことで慌てふためくような小物とは一線を画し、悪役キャラを強そうに見せるテクニックなのだと思う。
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車田作品の95%のシーンでの、悪役キャラの表情は以下の4パターンしかない。
A.ノーマル(無表情)
B.「フッ」
C.「な なにぃ……」
D.「うわあああ~!」
A.は基本となる無表情である。
登場の序盤はこの表情が圧倒的に多い。
次に多いのが、B.の目を閉じ、口元に微笑を浮かべながら「フッ」とスカした表情である。
序盤はA.か、B.のどちらか、またはA.とB.の複合型の表情ばかりである。
(複合型は、目はA.の無表情で口元はB.の微笑か、逆に目はB.の閉じた形で口元はA.の無表情のいずれかのパターン)
中盤になると、格下だったはずの主人公勢の奮闘に、「な なにぃ……」とC.の驚きの表情を浮かべるようになる。
そして、最終盤には主人公勢の逆転の一撃に、「うわあああ~!」とD.のヤラれ表情をして退場となる。
車田作品の悪役キャラの表情は以上の4パターンがほとんどである。
あとは、高笑いをするなど、例外的な表情をすることがまれにあるくらいである。
これほど表情が少ないにも関わらず、面白いマンガが描けるのは驚くべきことではないかと思うのだ。
表情の少なさで言えば、あだち充先生の作品も表情は少ない。
表情どころかセリフも少なく、吹き出しのない無言のコマが非常に多い。
なのに、繊細な感情が伝わってくるのである。
マンガの表現は改めて奥が深い。